水平線の彼方に(下)
「……お兄ちゃん?」

声をかけるとハッとした表情に変わった。
腕を持つ手の力を緩め、強張ったまま私に言った。

「綺良ちゃん…着替えないよ…」

泳いでも構わないけど…と付け足す。
泳いで欲しくなさそうなその顔に、思いきり反省させられた。

「いい…上がる…」

腕を離され立ち上がった。心底ホッとしたようなお兄ちゃんが息を吐く。
それを見て、私は、今とんでもない過ちを犯したんだと気がついた。

ザブザブと陸に向かって歩く。
私の後ろからついて来るお兄ちゃんのことを考えると、胸が張り裂けそうな程痛かった…。

ビーチに着くと、彼女がお兄ちゃんに走り寄った。
心配そうな顔。その表情も固かった…。

私のことを子供だと言った伯母さんの言葉の意味が、ようやく分かった。
確かに今の私の行動は子供のやる事だった。
大好きな人に振り向いて欲しくて、してはいけない事をした。

(だったら…あの時のお姉ちゃんも、同じ気持ちで…?)


四年間、写真を見る度、海を見る度、問いかけてきた…。
…一体何があったのか。
二人の間に、一体何があったのかと…。


「……お兄ちゃん!」

積年の思いを聞くのは今しかない。
この疑問が晴れない限り、私はいつまでも前へ進めない…。


そんな自分勝手な思いがどこかにあった。
それを口にする事で、誰かが傷つき、何かが壊れて行くことなど、何も考えもしなかったーーー。
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