水平線の彼方に(下)
「オレ達はいつも、ケンカばっかしてたよな…」

私に話してる感じじゃない。まるでお姉ちゃんに話しかけてるみたいだ…。

「あの日も…オレの言うことが煩わしいと、先に怒り出したのは萌だった…」



『いい加減にして!何もなかったんだからいいじゃない!』

キリキリと怒りを前面に出したようなキレ方をした。
オレとしてはただ単に、心配してただけだったのに。

『シンゴはいつもそう!心配心配って口では言ってるけど、態度は違う!私を自由にさせまいと、首を締める様なことばっか言う!もうウンザリ!やめてっ!』

自分が危険な目に遭いそうだった事など、知りもしなかった。
その日は野外ライブがあって、萌は友達と行くのを楽しみにしていた…。

ーーーーーーーー

『行くなって、どういうこと⁉︎ 』

ライブの前日、急遽止めた。仲間からの情報で、気になるものがあったから。

『萌ちゃんヤバイ目に遭うかもしれないぞ!』

同じアパートの先輩が教えてくれた。
萌を追いかけてる男の存在。そいつが薬をやってると告げられた。

『だいぶ前から狙ってるらしいぞ。萌ちゃんはどっかケーハクそうな所があるからな』
『そんなことないですよ!』

誰も知らないだけだと思った。萌の外見だけで、皆がそんなレッテルを貼ってる。
でもそれは、本人にも責任があった…。



「萌は不安定で優柔不断で、楽しい事や面白い事には直ぐに首を突っ込む様な所があった…。だから周りから、ノリのいい子だと勘違いされてた」

だからって、なんでもOKだった訳じゃない。それなりに線を引いて区別はしてた。

「だからオレもある程度は任せてた。…無関心にならない程度に、自由にさせてたつもりだった。だけどあの時はさすがにヤバイと感じて引き止めた…。けど萌は、そんなオレの言葉を嫌ってライブに出かけた…」

身の危険を感じて引き止めてるのに聞いてもらえなかった。
そんなお姉ちゃんの態度に、お兄ちゃんはやりきれなくなった…。

「いろんな事でケンカをしてきたけど、もう何も言う気がしなくなった…。萌にはオレが必要じゃない気がした…」

怒りを通り越して感じる虚しさ。それはお兄ちゃんの心に広がった…。

「…別れようと言った…本当にもう、それでいいと思った…」


ずっと心に抱いてた不安が形になる。
お兄ちゃんから捨てられる…。
いつかそんな日が来るんじゃないかと、子供ながらにずっと心配してた……。
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