水平線の彼方に(下)
背中をさすりながら、伯母さんはあの事故のことを説明してくれた。
「キラはまだ中一だったからよく憶えてないと思うけど、真ちゃんはあの事故で、右耳が聴こえなくなったんだよ…」
「えっ⁉︎ ウソッ!だって、いつも普通に話してたよ!」
お兄ちゃんとの会話を思い出した。滞りなく話す姿しか、思い浮かばなかった。
「キラは花穂さんの立ち位置に気づいてなかったんだね。あの人はいつも真ちゃんの左側に立ってるよ。自分の声が届く場所にね…」
今朝のビーチで、確かに彼女はお兄ちゃんの右にいた。
その時だけじゃない。そう言えば、ずっとそうだった…。
「緊張すると声が小さくなるからなんだって言ってたよ」
真っ赤な顔で話をしてた初対面の時を思い出した。
あんな風にお兄ちゃんの前でも、今だに緊張することがあるんだろうか…。
「…真ちゃんね、去年ここへ来れたのは、花穂さんのお陰だと言ってたよ」
「えっ…⁉︎ おばちゃん、彼女がいるって聞いてたの⁈ 」
それならなんで黙ってたの⁈ と言いたくなった。聞いてたら好きになる前に諦めてたかもしれないのに…。
「その時はまだ彼女になってなかったんじゃないかい⁈ 同級生のおかげでって、言ってたから」
「同級生…」
昨日の車の中でそれを聞いた時、ああ、この子の事だったのか…と思ったらしい。
「花穂さんね、自分を責めてばかりいたら、萌がいつまでも逝けないって言ったそうだよ。安心させたくないのか…って…」
私達親族なら、亡くなってしまった魂をいつまでも胸に残して、それを支えに生きて行くかもしれないけれど…
「真ちゃんは親でも兄弟でも親戚でもないからね…萌のことだけをずっと想って欲しいなんて、我儘言えないだろう?第一、萌自身がそれを望むとは思えないよ…。あの子は誰よりも、自分が一番みたいな子だったからね…」
自分の気持ちや思いを大切にしてた姉だった。
お兄ちゃんの心配や不安よりも、自分の欲求を優先した…。そして亡くなった…。
「花穂さんは萌と正反対だね。だから真ちゃんは彼女を選んだんだよ。お互いに相手を思いやれる、そういう人と一緒にいたかったんだ…」
二人の間に漂う優しい雰囲気は、お互いが相手を思うからこそ醸し出されるもの…。
伯母さんの言葉は、一つ一つ、胸に重く響いた…。
「キラは真ちゃんに笑って生きて欲しくないかい?それを萌が一番望んでると思わないかい?」
姉の真似をして髪型を変えた。
自分の性格には合わなかったのに、わざと大人びて見せたかった。
でも、やっぱり姉にはなりきれない…。
「お姉ちゃんなら、それを望むと思う…」
誰よりもお兄ちゃんの未来を信頼してた。
彼自身がどんなに落ち込み、自暴自棄になっても、必ずプロになれると信じてた。
自分の思いを大切にするように、お兄ちゃんの夢も大切にしてた姉だからこそ、きっと笑って生きる未来を望んでる…。
「だったらそれを応援しようよ。真ちゃんが幸せに生きていけるように、萌の代わりに、私らが見届けるんだ…」
決意に近い言葉に小さく頷いた。
姉に似せた自分が、本来の自分に戻って行くような気がした……。
「キラはまだ中一だったからよく憶えてないと思うけど、真ちゃんはあの事故で、右耳が聴こえなくなったんだよ…」
「えっ⁉︎ ウソッ!だって、いつも普通に話してたよ!」
お兄ちゃんとの会話を思い出した。滞りなく話す姿しか、思い浮かばなかった。
「キラは花穂さんの立ち位置に気づいてなかったんだね。あの人はいつも真ちゃんの左側に立ってるよ。自分の声が届く場所にね…」
今朝のビーチで、確かに彼女はお兄ちゃんの右にいた。
その時だけじゃない。そう言えば、ずっとそうだった…。
「緊張すると声が小さくなるからなんだって言ってたよ」
真っ赤な顔で話をしてた初対面の時を思い出した。
あんな風にお兄ちゃんの前でも、今だに緊張することがあるんだろうか…。
「…真ちゃんね、去年ここへ来れたのは、花穂さんのお陰だと言ってたよ」
「えっ…⁉︎ おばちゃん、彼女がいるって聞いてたの⁈ 」
それならなんで黙ってたの⁈ と言いたくなった。聞いてたら好きになる前に諦めてたかもしれないのに…。
「その時はまだ彼女になってなかったんじゃないかい⁈ 同級生のおかげでって、言ってたから」
「同級生…」
昨日の車の中でそれを聞いた時、ああ、この子の事だったのか…と思ったらしい。
「花穂さんね、自分を責めてばかりいたら、萌がいつまでも逝けないって言ったそうだよ。安心させたくないのか…って…」
私達親族なら、亡くなってしまった魂をいつまでも胸に残して、それを支えに生きて行くかもしれないけれど…
「真ちゃんは親でも兄弟でも親戚でもないからね…萌のことだけをずっと想って欲しいなんて、我儘言えないだろう?第一、萌自身がそれを望むとは思えないよ…。あの子は誰よりも、自分が一番みたいな子だったからね…」
自分の気持ちや思いを大切にしてた姉だった。
お兄ちゃんの心配や不安よりも、自分の欲求を優先した…。そして亡くなった…。
「花穂さんは萌と正反対だね。だから真ちゃんは彼女を選んだんだよ。お互いに相手を思いやれる、そういう人と一緒にいたかったんだ…」
二人の間に漂う優しい雰囲気は、お互いが相手を思うからこそ醸し出されるもの…。
伯母さんの言葉は、一つ一つ、胸に重く響いた…。
「キラは真ちゃんに笑って生きて欲しくないかい?それを萌が一番望んでると思わないかい?」
姉の真似をして髪型を変えた。
自分の性格には合わなかったのに、わざと大人びて見せたかった。
でも、やっぱり姉にはなりきれない…。
「お姉ちゃんなら、それを望むと思う…」
誰よりもお兄ちゃんの未来を信頼してた。
彼自身がどんなに落ち込み、自暴自棄になっても、必ずプロになれると信じてた。
自分の思いを大切にするように、お兄ちゃんの夢も大切にしてた姉だからこそ、きっと笑って生きる未来を望んでる…。
「だったらそれを応援しようよ。真ちゃんが幸せに生きていけるように、萌の代わりに、私らが見届けるんだ…」
決意に近い言葉に小さく頷いた。
姉に似せた自分が、本来の自分に戻って行くような気がした……。