水平線の彼方に(下)
Act.7 クラスメート
伯母さんの家からひょっこり帰って来た私を見て、ママはとてもビックリした。

「どうしたの綺良、バイト首になったの⁈ 」

伯母さんから連絡がいってなかったらしい。突拍子もない言葉に、そんなワケないでしょ…と素っ気なく答えた。

「お休み貰ったの。別のバイトが来てる間」

お兄ちゃんのことは内緒。ママも昔の私と同じで、お兄ちゃんのことをよく思ってなかったから。
それに、お兄ちゃんのことを話せば、また亡くなった姉のことで落ち込む。
ただでさえ毎年あの事故の頃になると、しんみりしてしまうのに…。

(滅多なこと話せないよ…)

クーラーの効いたリビングでボンヤリ。友達にLINE流してた。

「はい、これ飲んで」

暑い時間に帰って来たから作ってみたと言う。
カラカラと涼しげな氷の音に懐かしさを感じながらグラスに手を伸ばした。

「……これ、おばちゃんの作るジュースと同じ味がする!ママが作ったの⁉︎」

シークワーサーの果汁を絞ったジュース。ママが今まで作ったのを見たことがない。

「そうよ。当たり前でしょ」

笑ってる。作り方はお婆ちゃんに教わったらしい。

「綺良も萌も酸っぱい物苦手だから作ったことなかったのよ。でも、最近は大丈夫みたいだし、久しぶりに作ってみたの。美味しいでしょ?」

「うん。美味しい…」

思い出すバイトの初日。こんな形で家に帰るなんて、思ってもみなかった…。

「このジュースの作り方を教えられるのも、綺良だけになっちゃったわね…」

しんみりした言い方。どうやら姉のことを思い出したらしい。

(なんで…?)

ふと顔を上げて気づく。

(そっか…。この髪型のせいか…)

ユラユラ揺れるウエーブ。生きてた頃、姉が気に入ってたのを真似した髪型。

(これも…やめなきゃな…)

見せたい人には失恋したし、髪を切るには丁度いい理由にもなるこの暑さ。
お金は勿体無いけど、これ以上、姉の真似をしても仕方ない。

美容院へ行くとは言わずに家を出た。
髪が貼り付きそうなそうな蒸し暑さ。もしかしたらスコールが近いのかも。

(この際、思いっきり短くするのもいいな…休み中だし、明ける頃には少しくらい伸びるだろうし…)

コンビニのガラスに映る自分を見ながら、毛先のカールを触る。
この感触ともお別れか…と、ちょっぴり感傷に浸りかけた時…。

(んっ…⁈ )

視線を感じて顔を上げた。

「あっ…!」

向こうも同じ口元。慌てて店から出て来る。

「キラリ!やっぱお前か…!」

「ジョ…ジョーリ…」

(まずい。非常に気まずい…)

こんな所で彼と会うとは…予想もしてなかった…。
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