水平線の彼方に(下)
幸いなことに伯母さんに呼ばれ、嫌な夏休みから解放されると喜んだ。なのに、こんな所でジョーリと再会するとは…。

「…どうよ、バイトは…」

フッた相手からの質問。なんだかあまり答えたくない。

「どうって…まあまあ。それなりに大変だけど…」

かろうじて普通な会話心がける。気持ちの上では、荒波が立ってるけど。

「ジョーリは?…どうなの?部活」

聞かれたから聞いただけ。部活帰りだって言ってたし。

「県体でベスト4に入った」
「すごい!ホント⁉︎ 」
「相手高が…」

ガクッ……

「何よそれ!」

調子狂う。前からこんなジョーク飛ばすようなヤツだったけど…。

「俺達の実力なんて、そんなもんだよ」

真夏のグラウンドでテニス。私なら考えただけでも嫌だ。

「ベスト8に入っただけでもすごいじゃん!」

褒め称える。自分にはそんな頑張りないから。

「明日から部活休みなんだ」
「そう…私もバイト休みなの。四日間だけ」
「四日⁉︎ 短っ‼︎ 」
「いいでしょっ、ほっといて」

幾らか肩の力抜けてきた。本来の調子でジョーリが話しかけてくるから。

「バイト、何やってんだよ」

ギクッ‼︎ 一番答えにくいこと聞いてくる。間の悪いヤツだ。

「伯母さんの手伝い。植物の苗物扱ってんの」
「植物…⁉︎ キラリ面倒見れるのか⁉︎」
「失礼ね。当たり前でしょ!これでも去年もやったんだから!」

ムカつくこと平気で言う。これが本来のジョーリだ。

「キラリ」というのは学校での私のニックネーム。実はジョーリがつけてくれた。

「何すんだよ。四日間」
「決めてない。髪は切ろうかなと思うけど」

ユラリ…首元になびく毛先を見た。

「そーいえばお前、それ禁止だぞ!うちの学校!」

頭を指さす。

「お堅〜っ!皆やってるよ」

学校では結ったりして見つかんないようにしてるだけ。
大体私なんて可愛いもんだよ。休み中だけ…って約束だもん。

(それも今日、切ろうかと思ってるし…)

こっちの気持ちなんて分かってない。ジョーリは平気でいろいろ聞いてくる。

「なんで切るんだよ。勿体無い」

お金かかってるんだろう…って。確かにそうだけど…。

「暑いし、ちょっと思う所もあってやめようかと…」
「あっ!分かった!失恋したんだ!」

ギクッ‼︎

遠慮のないツッコミ。思わず虚どってしまった。

「いや、えっ…と、あの…」

いつも調子で言い返せば済むことなのに言葉が出ない。ビンゴ過ぎてなんとも語りづらい。
そんな私の様子に何かを感じたらしい。ジョーリが笑った。

「…なんて、それはないか!」

俺じゃないし…って、最後の一言は余計だ…。

「…じゃあ…帰るわ」

チャリの鍵開ける。これまでなら明日遊ばない⁈ と声をかける所だけど…。

「バイバイ」

その言葉しか言えなかった。
心なしか、ジョーリががっかりしてるよう。でも、それも仕方ないときっと思ってる。

「ああ。じゃあな!」

チャリを跨ぐ。走り出そうとペダルに足を乗せ一言放った。

「キラリ、その髪似合ってるよ。俺は好き」

ドキンッ‼︎

走り去る後ろ姿。
クラスメートの優しさが、ほんの少しだけ胸に沁みた…。

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