水平線の彼方に(下)
翌日の体育祭は延期になった。
急に発達した低気圧の影響で、大雨になったからだ。

『残念!雨は想定外だった…』

ルゥちゃんのキャラが泣いてる。私は心なしかホッとしていた。

告白タイムは一日伸びた。
昨日の混合リレーの結果で、ジョーリがスターになるのは、ほぼ間違いないと思った。

明日、予定通り体育祭が開催されれば、私の恋はそこで終わり。
目の前でジョーリが芽里に告白して、私の想いは完全に葬り去られる。

誰にも言わず、何も知られないまま、胸の奥深く、二度と開けないパンドラの箱の中へ。


お昼近くになって、空が明るくなってきた。
窓に張り付いてた雨粒は消え、雲の隙間から光が差し込んでくる。
その光は海の中を点々と差し、そこに眠る魂を吸い上げてるよう。
四年前に亡くなった姉の魂も、あの光の中にいるように思えた…。

「そうだ!お兄ちゃんに連絡取ってみよう!」

地元へ帰ったまま、その後どうしてるかが気になった。
聞いてた番号に電話する。
お兄ちゃんは出ない。きっと仕事でいないんだ…。

「ちぇっ。つまんないの…!」

海を見ながら呟く。
そこへ電話がかかって来た。

「もしもし、綺良ちゃん?電話した?」
「お兄ちゃん…!」

二ヶ月ぶりの声。安心して思わず言った。

「良かった…元気そうで…」

バカみたいに涙ぐむ。それをすぐに悟られた。

「どうした?何かあったか?」

鼻水の音気にしてる。

「何もないよ!お兄ちゃんの声聞けて嬉しくて感動してるだけ!」
「大袈裟だな…夏はほぼ毎日聞いてたじゃねーか」
「そうだけど、あれからサッパリだったし…」

気になってたその後のこと。
花穂さんとは今、どんな関係でいるのか。

「誰…?」

微かな声が聞こえた。動物的な勘が働く。

「お兄ちゃん…そこに花穂さんいる⁉︎ 」
「…いるけど」
「替わって!お願い!」

今は亡き姉に代わり、声が聞きたかった。
優しい声に癒されたい…そういう心境だった。
お兄ちゃんに電話に出るよう言われた花穂さんは、小さく咳払いをして声を発した。

「もしもし…綺良さん…?」

電話の向こうで顔も見えない私に上がってる彼女の姿が思い浮かんだ。

「お久しぶりです!夏休みはお世話になりました!お元気ですか?」
「元気よ。綺良さんも元気そうで何より…」

一応お互いの健康状態を確かめ合う。それから切り出した。

「あの…お兄ちゃんからプロポーズはありましたか?」
「えっ⁉︎」

し…ん。あれ⁉︎ 黙ちゃった…。

(…もしかして私、また余計な事聞いた…⁈ )

「あ…あの…今の気にしなくていいから!また電話する!お兄ちゃんによろしく!」
「う、うん…分かった…じゃあね!」

ピッ!終了ボタン押す。電話の向こうで花穂さんが、どんな顔をしてるかがカンタンに想像できた。

(やばっ…まだだとは思ってなかった…)

夏休みの様子では、すぐにでもしそうな感じで話してたのに…。


今頃、言葉を無くしてる人のことを考えた。

あの人達には、絶対に幸せになってもらいたい。
姉の分も含め、ずっとずっと、幸せでいて欲しい。
そしたら自分も少しは報われる。二人の姿に、傷も癒される…。

「お姉ちゃん…どうか二人を導いて…」

写真に向かって呟いた。
姉は静かに微笑みを讃え、未来を約束してくれてるように思えた……。
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