水平線の彼方に(下)
お兄ちゃんは亡くなった姉の彼氏だった人。私が小学生だった頃、二人は付き合い始めた。
自分の妹のように私を可愛がってくれて、いつも優しかったけど、私にはどこか遊び人っぽく見えて、信用しきれない所があった。

そのお兄ちゃんと、この最近会ったのは去年の十一月。
たまたまママに頼まれて、伯母さん家に届け物を持って行った時。
髪を短く切っていたから、最初は誰とも分からなかった。
でも、声がよく似ていた…。


「お兄ちゃん…?」

呼びかけに振り向いた。その顔が懐かしかった…。

「綺良ちゃん!」

嬉しそうに駆けて来る。
頭に置かれた大きな手が、あの頃を思い出させた。

「元気そうだね。もう高一…?」

「うん。お兄ちゃんも元気そうで…」

(良かった…)

ずっと、ずっと、心配してた。

「少し見ない間に大人になったね…」

髪を撫でる仕草にときめく…。
お兄ちゃんが見てるのは、私ではなく、姉のようだった…。

ドキン…ドキン…

激しい胸の痛みに襲われた。
大人の男性に髪を撫でられ見つめられるなんて、私には初体験。
当然のことながら頭がクラクラした…。

(まずい……好きになりそう……)

歌手でも俳優でもモデルでもそうだったけど、夢中になる前は分かる。
この時も同じ。
優しいお兄ちゃんの何気ない態度一つで恋に落ちた…。

ーーー初恋。
亡くなった姉の代わりに、私がこの人を幸せにする。
勝手な想像。
取るに足らない子供の戯言を、まだ誰も知らずにいたーーー。
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