水平線の彼方に(下)
時間を遡ること一時間くらい前、ジョーリは本部席横に設けられた救護班にいた。

「全くもう!無茶して!」

保健の先生に怒られながら湿布を貼られ、上から包帯も巻かれてる。
その顔に、悔しさは見られなかった。

「はい、終わり!今日片付けが済んだら病院へ行くこと!ちゃんと診てもらいなさいよ!」

ペチン!と患部を叩かれてる。
足首に巻かれた包帯のせいで靴も足先しか入らない。そこへ走り寄った。


「キラリ…」

なんでここに居るのか…て表情。その顔に向かって声をかけた。

「ダメじゃん!大事なリレーの前にケガなんかして!芽里取られたじゃん!」

心配してる気持ち隠す。それが今までの私達だ。でも…

「痛そうなのに無理して走って…どうしてそうやっていつも頑張るの…少しくらい自分を労わりなよ…」

頑張り屋なのは知ってる。努力家で人一倍負けず嫌いなのも知ってる。だって…

「キラリいいとこ来た。肩貸して」

テーブルで身体を支えながら私を呼ぶ。そのジョーリに近付いた。


「………!」

肩を貸すと言うより抱きつかれた。
ううん、違う。
抱きしめられたんだ…。

「……好きだ…キラリが…」

ジョーリの手に、水色のバトンが握られたままだった。
これは告白タイムの続き…?
それとも…

「ジョークじゃないからな」

真面目な顔が側にある…。
ずっと、この距離感でいたいと願ってた。
すぐそばで声が聞けて、顔が見れて、話ができる。
そんな二人でいたいと願ってた…。

「芽里には協力してもらっただけ。キラリに振り向いて欲しくて…」

ごめん…と謝る。そのバトンを、ギュッと握った。

「…ジョーリが好き…」

水色のバトン、受け取ったら涙が出た。

ジョーリが好き…
ジョーリが大好き…

胸の中で繰り返す言葉の全部がそれになる。
バトンが涙で濡れて光る。
ようやく返ってきたホントの日常。
でも、これからは友達としてじゃない…。

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