水平線の彼方に(下)
閉会式は本部席で見た。
足を挫いたジョーリをサポートする…そう嘘をついて。

ラジオ体操が始まる。その音楽に紛れるようにジョーリが話してくれたのも、芽里と同じ話。
ただ、違ってたのは…

「夏休みの最後の日、俺と芽里が付き合ってるのか確かめたろ?あの時、咄嗟にそういうことにしてみたら、どんな顔するか見たかった…。結構ショック受けてたっぽいから、もう少し様子見ようかと思って、噂そのままにした」

夏休みが始まろうとしてたあの日、思いっきりフラれた。

「好きな人がいる…」

その言葉が重かった。

「俺がどんなに想っても、キラリの心は掴めないんだってそう思うと悔しくて、無かった事にしてしまえと一旦は思った…」

幸い私がバイトで伯母さんの家に行って、顔を合わせることもなくて助かった。
なのに、あのコンビニでバッタリ会って…。

「キラリがキラリに見えなかった…大人みたいで…」

ウエーブのかかった髪…。長かった髪を切ってまで、大人の仲間入りをしたかったのかと思った…。

「でも!あの時似合うって…!」

俺は好き…って言ったよね⁉︎

「腹いせってやつ。キラリが好きなのは大人の男なんだと思ったから」

ドキッ…鋭い勘。

「なのに、髪切るとか言うし、失恋したんだって茶化したら固まるし、こいつバカ正直だなぁ…って…」

くくくっ…と笑う。
その時私が一瞬喜んだのって一体何だったの⁈

「…次の日、キラリに会って…」

いつの間にかこっち向いてる。視線が髪を見てた。

「やっぱこっちの方が似合うって実感した。直球勝負みたいなお前にストレートはハマってる」

指で髪を撫でた。
心臓が異様な程、ドキドキした…。

「芽里と付き合ってると噂になって、距離を置こうとするキラリが気に入らなかった。一時は本当にムカついて、どうでもいいやとも思った」

『バイ』と言ったのはそれの象徴。

「でもすぐに反省した。キラリが元気なくなったから…」

リレーの練習に来てもうわの空。メニューをこなしてるようで手を抜いてる。
それをずっと見てたらしい。

「俺のせいかな…て、ちょっと自惚れた…」

いつもみたいに声かけてやろう。そしたら何か変わるかも…。

「そう思った…」

混合リレーの時、私から受け取ったバトン。
その力強さに変化を感じた…。

「どんな?」

聞いてみた。
ラジオ体操は終わろうとしてる。

「なんか重くなったって言うか…今までみたいに、軽くない気がして…」
「プッ!」

吹き出した。
軽くない感じね…確かにそうかも。

「あのな…笑うけど…」
「ホントだよ。私、あの時ジョーリに自分の気持ちごと手渡したもん…」

確かに届いてた。
私の気持ちはバトンを通じて、ジョーリの元へ…。


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