水平線の彼方に(下)
沖縄の海に沈んだ綺麗な魂は、今もそこから全てを見ている。
彼女の気持ちに勝てることなど、きっと、一生ないのかもしれないけれど。
生きて人生を共にすることで、何かを育み、傷を癒し合っていけるのなら…。
この人の側で、愛することを…愛されることを…教われるのなら……

「…お嫁に行きます…ノハラの所へ…」

自分なりに力強く言えた。
誰にも譲れない。大切な存在。かけがえのない人。
彼は私にとって、とても重要な人だから…。


「あのな…」

少し呆れるような声がする。
目線の先に、少しだけ顔の赤い人がいた。

「その同級生みたいな呼び方、いい加減変えろ。前からやめろって何度も言ってるだろ」

初めて電話で会話した後から、散々言われ続けてた。
でも私は恥ずかしくて…。
言い方を変えると、何もかもが終わってしまいそうで、怖くて…変えられずにいた…。
でも、もうそろそろ……

「真……」

期待の眼差しが刺さる。
そんな目をされるとダメ!何も言えなくなるから…。

「ちゃん…」

ガクッ。
ノハラ…じゃない、彼が肩を落とした。

「あ…あの…」
「もう怒った!名前きちんと呼べるようになるまで今日は返さない!」
「エエッ‼︎ 」
「ずっと離さない!トイレにも行かさない!」
「えっ⁉︎トイレにも⁉︎ ヤダ、困る!」

本気で叫んだ。唯一の安息の場所…ではないけど。

「それは大袈裟か…。でも、外で見張っとく。逃げないように!」
「ええーっ…」

(ヤダ…勘弁してほしい…)

唇尖らせて彼を睨む。でもどこ吹く風。
言い出したら聞かないんだよね…昔から…。

「分かった…今日中には言えるようになるから…頑張るから…トイレだけは一人で行かせて…」

「…よしっ!絶対だな⁉︎ 」
「うん…(多分…)」

言えなかったら、明日ここから出勤すればいい。
いつでもお泊まりって、お母さんもお婆ちゃんもいつも言ってくれてるもん…。



長い時間が過ぎて、再び出会った私達の時は、付かず離れず、同じ距離を保とうとしていた。

くっ付いてしまえば何かが壊れる気がして、何かが剥がれ落ちてしまう様な気がして、

どちらからも相手に踏み込めず、でもずっと、側に居たくて…居て欲しくて…。

抱えてた重い荷物を分け合って、傷を癒し合って、少しずつ少しずつ、距離を縮めた…。


二人で見たあの暗い海には水平線も何も見えず、ただ真っ暗な闇が広がってただけだったけど…

その先には必ず、明るい陽射しがあって、明日があって、

夢や希望に溢れてる…。

それがどこまで続いているのか、それは誰にも分からない。

けれど、

時に曇り、見えなくなることもあると思うけど、

この人の側にいる限り、この人が隣にいる限り、

私はこれからも信じ続けていける…。


水平線の彼方には、確かな未来が待ってるってことをーーー


下巻Fin
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