水平線の彼方に(下)
「…お姉ちゃん、お兄ちゃんまた来るんだって。お墓参り…してくれるといいね…」

写真の中の姉に話しかけた。
去年は二人でお参りに行った…。


海が見渡せる高台の墓地。そこには多くの魂が眠っている。
その一つに手を合わせ、お兄ちゃんは長い黙祷を捧げた…。
墓標を黙って見つめる姿に、どこか姉と話し込んでるような気がしてその場を離れた。
墓地の中をウロついて戻ってみると、お兄ちゃんは眼下に広がる海を眺めてた。

「海は変わらず綺麗だな…」

振り向いて笑った。

お兄ちゃんの笑顔を見たのはいつぶりだろう…。
あの事故の後、彼が地元へ帰るまで、多分一度も見ていない…。

サーファーらしい髪型もやめて、スッキリと短く髪を切ってたお兄ちゃんは、あの頃よりもうんとステキでかっこ良くて…。
もしかしたらホントのお兄ちゃんの姿はこっちなのかな…と、子供心にそう思った…。



テル伯母さんの仕事を手伝いながら送る夏休み一日はハードだった。
昼間の一番暑い時間帯は仕事に向かないと言って、朝早くから起こされる。
日頃ノンビリした生活を送ってる私には、これが一番辛い。
顔を洗い、朝食も食べずに仕事をする。水遣りに、日除けに、出荷の準備…。
やり始めたらメドがつくまで終わらない。
そしてやっと、朝ご飯に辿り着く。

「美味しー!サイコー!」

大袈裟でなくホント。伯母さんの作るおかずはどれも天下一品。
でも、これを食べたら、またやって来る地獄…。
今度は汗をかきながらの作業。そしてやっと昼休憩になる。

「あー…疲れた…」

床に寝転ぶと居眠りが始まる。
ここでしっかり休んでおかないと、夕方の水遣りができない。

「おばちゃんはスゴイね。こんなハードな生活をずっと続けてるんだから」

結婚もせずに引き継いだ稼業。女一人で生きていけるようにと、アパート経営まで始めた。

「大した事ないよ。慣れれば誰でもできる」

大らかな性格。どんな事があっても、決してへこたれそうにない。


そんな伯母さんの元でバイトを始めて一週間。やっとカレンダーをめくる日がやって来た。

「今日から八月!」

早起きにも慣れ、自分で起きれるようになった。
それに今日は、お兄ちゃんがやって来る!

「お姉ちゃん、お兄ちゃんが来るよ!」

鏡の自分に話しかける。緩くパーマのかかった髪型を見て、お兄ちゃんはなんと思うだろう。

(フフッ…楽しみー!)
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