透明な君へ

「先輩、今日はコンタクトなんすね?」

無邪気に僕の顔を覗き込んでくる崇の顔を見れば、次に何を言おうとしているのか容易に想像できる。


「何だかんだ言って、先輩も乗り気なんじゃないですかぁ!」


予想どおりの台詞を吐く崇。
白い歯を見せ付けるように、楽しそうに笑っている。


「別に乗り気とかじゃなくて、気分の問題だよ」

「乗り気な気分だったんでしょ?」

「……あぁ、そうかもな」


苦笑混じりに適当な返事を返すと、奥に座っている男も遠慮がちにこちらを覗き込んでいる事に気付いた僕は、話をコンタクトから自己紹介へと転換させる事にした。


「あの、初めまして。野咲透夜です」

男は、突然話し掛けられて驚いたのか、綺麗な弧を描く眉毛の下の目がぱちぱちっとすばやく瞬きをした。


「あ、あ、あの…あの……」

発せられた言葉は吃りまくり、続いていかない。

それが恥ずかしかったのか何なのか、下を向いてしまった。



なんだ?この男……?

ぽかんとする僕とは対照的に、こうなる事をまるで分かっていたかのように落ち着き払っている崇が、彼に変わって紹介する。


「美山秋翔(みやましゅうと)君です。大学は違うんですけど、会社の同期で」

「そうなんだ。……美山さん、よろしくね」

そう言って笑ってはみたものの、未だ俯いたままの彼には意味が無かったかもしれない。


「どうすりゃいいの?」そんな意味を込めて崇に視線を移した瞬間、美山さんの柔らかい声が、意外な言葉を発した。


「名前…で……呼んで下さい」



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