透明な君へ
初診察
その日僕は、柄にもなく少し苛立っていた。
柄にもないと言ったのは、どうやら僕は“いつもにこにこしていて穏やかで優しい”らしいからだ。だから『精神科に向いている』なんてまわりにはよく言われるけど、僕はそうは思わない。
内科にだって外科にだって、優しいお医者さんがいたら嬉しいじゃないか。
だけどそうは言わずに、『ありがとうございます。頑張ります』と笑顔で返してしまうから、いつになってもそのイメージのほうが本当の僕よりも大きな顔をしているのかもしれない。
本当はただ、せっかくのお誉めの言葉に対して、反論して波風立ててまで主張するのが面倒なだけなんだ。
どうも昔から面倒臭がり屋で。挙げ句に少し冷めている。
と、自分では思っている。
面倒臭いから笑うんだ。
冷めているから笑うんだ。
本当にいい奴っていうのは、その心も言葉も表情も、思う存分自由なやつなんだと思う。なんていうかこう……いろんな色があってさ。
だから僕は優しくなんかないんだ。
だけど今日の僕は、少しイライラしている。