小悪魔的な彼と悲観的な彼女
だから思わず、尋ねる言葉が口から出てしまった。だって全然違ったからだ。彼の物とは全然違う、そんな笑顔を持つこの人はーー
「えっと、30です」
ーーあぁ、やっぱり。
「そう、ですか」
やっぱり違う。拓也君とは、まるで違う。
「…素敵な笑顔ですね」
ポツリとこぼれた私の言葉に、その人は少し困った様に笑ってみせた。
ーー穏やかな対応に、経験を感じる。
例えば上司に相談している時のような、そんな気分。
「彼女じゃなかった、ねぇ…」
でも、始めは話をするつもりなんてこれっぽっちも無かった。こうやって話しかけてくる人は怪しい。そんなの、それこそ拓也君からしっかり学んでる。…それなのに、
「でも別れたくないんだ?」
「…それが…まだ分からなくて」
私の口は、どんどん言葉を紡いでいく。その人に向かって、どんどん想いを口にしていく。