小悪魔的な彼と悲観的な彼女


だから思わず、尋ねる言葉が口から出てしまった。だって全然違ったからだ。彼の物とは全然違う、そんな笑顔を持つこの人はーー


「えっと、30です」


ーーあぁ、やっぱり。


「そう、ですか」


やっぱり違う。拓也君とは、まるで違う。


「…素敵な笑顔ですね」


ポツリとこぼれた私の言葉に、その人は少し困った様に笑ってみせた。



ーー穏やかな対応に、経験を感じる。

例えば上司に相談している時のような、そんな気分。


「彼女じゃなかった、ねぇ…」


でも、始めは話をするつもりなんてこれっぽっちも無かった。こうやって話しかけてくる人は怪しい。そんなの、それこそ拓也君からしっかり学んでる。…それなのに、


「でも別れたくないんだ?」

「…それが…まだ分からなくて」


私の口は、どんどん言葉を紡いでいく。その人に向かって、どんどん想いを口にしていく。

< 158 / 202 >

この作品をシェア

pagetop