小悪魔的な彼と悲観的な彼女


「…行くよ、すみれさん」


笑顔を貼り付ける拓也君の表情を見た。有無を言わさないその雰囲気に、私は促されるまま、自然と立ち上がる。

チラリと目をやると、隣に居たさっきまで話を聞いてくれていた男性は目を丸くして私達を見ていた。きっと驚いてるんだと思うけど、何に対してなのかは分からない。流れ的に今話してた彼がこの人だって察して、まさかこんなに若い子だと思わなかった、とかかもしれない。

…あぁそれとも、こんな若い子にハマってる私のどうしようも無さに驚いた、とかかな。


今だって何の抵抗も見せずに私は立ち上がって、“行こう”という言葉にどこまでも従順な態度を示している。

いつも通り。これが私達のいつも通り。私は拓也君に結局いつも逆らえない、それは初めて会った時からそう。

最後には拓也君の思い通りになっている。最後には拓也君の言葉通りになってしまう。私はそれに振り回されて振り回されて、それで今、こんな状況下にいる。


やっぱり私の他に、沢山女性が居た。

本当は私は彼女じゃなかった。

私は沢山居るその、女性の中の一人ってだけだった。


…じゃあ一体、私は拓也君にとっての何?

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