小悪魔的な彼と悲観的な彼女
「…でも、」
「聞きたくない」
「でも私っ、」
「聞きたくない」
「だけど拓也く、」
「聞きたくない!」
返ってきたのは、思いも寄らない強い意志だった。思わず次の言葉が、喉元で詰まる。
私の言葉を遮ったそれは、彼らしくも無いそれは、大きな感情の塊のよう。
らしくも無い…そう、らしく無い。
いつもの拓也君、らしく無い。
「……って、言ったよね」
…まるで装うように。ピタリと足を止めて言葉を失う私に向かって、同じように足を止めた彼はそんな言葉をポツリと繋いだ。
トーンを抑えたその言いようは、もういつもの拓也君を思い出させるもの。だけどそれでも…依然として彼は、私に背を向けたまま。
ーー表情が見えない。だから見せてくれた感情の名前が、私には分からない。