小悪魔的な彼と悲観的な彼女
「私は君が信じられない。信じられないから私には君との未来が見えなくて、だからもう、私は君とは…、っ!」
え、な…っ、
“何?”
ーーって、口は言おうとした。
でも言えなかった。動けなかった。
「…そうだね、分かってる」
耳元で、彼の、拓也君の声がする。
その言葉に何かを返そうにも返す事が出来ない。私は今、口が塞がれているのだ。
掴まれていた手が突然グッと引かれたと思ったら、そのまま彼のもう片方の手が私の口を塞いだ。離れようと試みてみたものの、私を引き寄せた方の手がいつの間にか腰へと回されていて、そこから逃れる事を許されなかった。
「すみれさんが僕から離れたがってるの、本当は分かってるんだ」
屈んだ拓也君が私の耳元で話を続ける。彼の声を、吐息を、耳元に直接感じる。
ーー熱い。
「でもね、すみれさん。それでも僕は…あなたに嫌われていたとしても、あなたを手離すつもりは無いよ。もう知ってるんだ、僕はあなたから離れる事が出来ないって」