小悪魔的な彼と悲観的な彼女
君が差し出すその手を、
うちに来て欲しい。
そう頼むと拓也君は、私の瞳をジッと覗きこんだ。
きっと何をどう言っても上手く伝わらないだろうからと、とにかく真っ直ぐな視線でその瞳に答える。すると彼にも、何となく私の気持ちは伝わったのだろう。頷いた拓也君にまた手を引かれて、私達はマンションへ向かう足を再び進め始めた。
その途中何も会話は無かったけれど、私はもうこの後どうやって気持ちを伝えようかで精一杯で、会話になんて気を回してはいられなかった。でも…きっとそれは、拓也君も同じなんじゃないかなと思う。お互い何か決意したものがあって、それまでの道筋を考えていたんじゃないかなと、思うんだ。
だってマンションに着いて私の部屋でいつも通りの場所に腰を下ろすと…その決意は、お互いから滲み出ていたから。
「…私ね、拓也君の事嫌ってないよ」
そして始めに口を開いたのは、私。私の言葉から始まるのは何となく分かってたし、そうあるべきだと私も思っていた。
「さっき拓也君は嫌われてるって言ってたけど、私は嫌いじゃないし、それに嫌いになんて…なれなかった。私は拓也君の事が、好きだから」
「…じゃあなんで」
そう言ってどこか縋るような目で私を見る拓也君は、やっぱり始めから私が別れようとしてたって分かってたんだと、今更ながらに思った。拓也君はもう、気づいてる。