小悪魔的な彼と悲観的な彼女
ーー笑ってる。
それはいつもの可愛い笑顔でも小悪魔的な笑顔でも無い。そこには獲物を見つけた獣のようでいて、その時を今か今かと期待しながら待つ子供のような、そんな無邪気の中に潜む何かを感じさせるような笑顔が、そこにはあった。
…動かない身体の中で、ゾクッとした何かを感じる。
「…拓也、君…?」
安心を求めたのか、確認をしたかったのか。私は恐る恐る、その知らない彼に声をかけていた。すると返ってきたのは、
「ん?何?すみれさん」
…いつも通りの、可愛い笑顔の彼の返事。
え?…え?何?
一体何が起きたんだろう…ていうか、何が起きていたんだろう。そう言わざるを得ないくらいに元に戻ったその場の空気と、彼の様子。
「ほらすみれさん、せっかく入れてきたんだから飲みなよ。冷めちゃうよ?」
「あ…う、うん…」