小悪魔的な彼と悲観的な彼女
違う種類の顔を彼は持っている。
今日、分かんないんだよなぁと言いながら見せた笑顔。それは困ってるような、少し呆れているような、そんな笑顔で、それもまたよく見慣れた笑顔だった。意地の悪い時の仕方ないなぁなんて時に使う、そんな彼のいつもの笑顔。
でも…その合間にチラリと見えたそれを、私は見逃さない。見逃せなかった。
楽しんでる…のかもしれない。
そんな感じだった。分からない、何て言いながら、困ったなぁ、なんて顔をしながら、彼は楽しんでいる。この状況を楽しんでいる。
楽しい事なんてあっただろうか。楽しく感じる部分なんて今のやりとりであっただろうか。
…分からない。私には、さっぱり。
あぁでも、それが当たり前なんだ。
拓也君の事が分からないんだから、拓也君の気持ちだって分からない。考えだって分かる訳がない。
拓也君はよく笑ってくれる。そして私の欲しい言葉をくれる。ーーそんな薄っぺらい情報しか手元にない私には当然の結果。
違和感なんてよく言えたものだ。違和感って言ったって、私は本当の彼を知らない。それは私が勝手に描いていた人物像から見た違和感で、本当の彼から見たらそこに何の違いも無いに違いない。