201号室の、オオカミくん☆
エプロンを着けた葵は「ん―」と首を傾げる。
「なんかね、わーって叫びたくなったんだよ」
よし、と腕捲りをして葵はまた踊り場に入り、シーツがかけられた絵をズルズルと持ってきた。
「久しぶりに、分家だの本家だの跡取りだの見てたら、窮屈でカビ臭くて息が上手く吸えなくて、わーってなっちゃった」
シーツが音もなく取り払われて、描かれていたのは青を基調にした抽象画だった。
ゆらゆらと深海をたゆたうような不思議な色合い。
お日様の下で描いてるとは思えない、穏やかな絵。
「だから家出?」
「家出じゃないよ。ただ家から一歩出たら、一切干渉しない約束しただけ。その代わり、舞を練習してあげてるんだ」
絵の具から独特な匂いがして、葵を守るように包み込む。