倦怠期です!

14

「今日からすずも飲めるだろ?」

というわけで、有澤さんは、会社の最寄駅近くにある居酒屋へ連れて行ってくれた。
なるほど。これは確かに「特別」だ。
居酒屋へは何度か行ったことがあるけど、いつもウーロン茶だったからなぁ。
私はドキドキしながら、カルピスのチューハイを頼むことにした。


「ハタチになった記念に。かんぱーい」
「かんぱーい。ありがと」と私は言うと、チューハイを一口飲んだ。

「・・・あ。カルピスの味だ。おいしー」
「なんやそれ!」

いつもどおりのにぎやかな雰囲気に、仕事のことを中心とした、いつもしている会話。
だけど、今夜は二人ともアルコールを飲んでいる。
なんかそれだけで特別っていうか・・・私、大人になったなぁと思ってりして。

ついクスッと笑ってしまったのをごまかすように、私は焼き鳥を頬張った。


2杯目のチューハイをオーダーした頃、有澤さんから包みを渡された。

「なにこれ」
「プレゼント」
「えっ、そんな。有澤さん、今日奢ってくれるだけで十分なのに・・・でもありがと」

嬉しい気持ちと、チューハイで酔ったのか、つい顔がデヘッと緩んじゃう。
止めようと思っても止まらないから、私はそのまま「開けてもいい?」と有澤さんに聞いた。
そして聞いておきながら、返事を聞かずに包みを開け始めてる私は、やっぱり酔ってるのかも・・・。

「わぁ!これ、書きやすいボールペンだよね?しかもボールペンの分際で1本515円もする、すっごく高いやつ!」と私は言いながら、箱からボールペンを取り出した。

書きやすいと評判のこのボールペンは、自腹を切って仕事時に使っている、流行大好きな戸田さんのを、一度試しに使わせてもらったことがある。
適度な太さと、持ち手のすべり止めのおかげで、確かに書きやすい。
さすが1本515円もする高級なボールペンだと戸田さんと話していたのを、有澤さんも聞いてたのかな。

とにかく、嬉しい!

「何にしようか迷ったんだが、これはおまえにピッタリ思うてなー」
「うんっ。有澤さん、ありがとう。大事に使いますぅ」

私はボールペンに頬ずりしながら、有澤さんにお礼を言った。

「どういたしまして。それから・・・これ」
「ん?まだあるの?そんなにたくさんいらな・・」
「これはおまえのお父さんから」
「・・・・・・は」

頬ずりを止めた私が、呆然とした顔で有澤さんを見たとき、チューハイと冷酒が運ばれてきた。
これはナイスタイミング?なのだろうか。

「おまえ、一昨日お父さんに会っただろ」
「な・・・見てたの」
「偶然な。で、おまえが駆けて行った後、おまえを追いかけようとしたお父さんを、俺が呼び止めた。お父さん、おまえにそれを渡したかったんだってさ」
「あ・・・そぅ」
「時期的に誕生日プレゼントだろ」

それは特別凝った包装をしてるわけでもない。
むしろ隅っこがしわになってて、全体的にヨレヨレだ。
もしかしてお父さん、ずっとこれを持ち歩いていたのかな・・・。

私は切ない気分に浸りながら、震える手でそれを開けた。

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