倦怠期です!
3
そっとドアを開けると、「う~」としゃがれた声が聞こえた。
「起きてたんだ。あの・・・さっき宿泊キャンセルの電話かけたよ。キャンセル料を支払うことになるけど、代わりに1泊宿泊券を贈りますって」
「そか・・」
「なんか、旅館の人は、私たちが結婚20年目って知ってたみたいだけど」
「予約したとき言ったんだよ。妻をビックリさせようと思ってるんですよー、なんて話してなぁ。それに、この1泊旅行のことは、日香里と遼にも話しといたし」
「えっ?じゃあ知らなかったのは、当人の私だけなの?」
「あー、まーな。なのにおまえにはこんな形で知られるとはなぁ・・・面目ない」
「仕方ないじゃん」
「あぁ!つくづく自分が情けねえ!」
と夫は叫ぶと、その反動でゴホゴホ咳込んだ。
「ちょっと、急に大声出さないの。薬飲んだからって、治ったわけじゃないんだよ」
「う・・・ごめんな。せっかくおまえをビックリさせようと思ったのに・・・俺もおまえと二人っきりで旅行するの、めっちゃ楽しみにしとったのに。俺、なぜかおまえに関することは、肝心なときにヘマやらかすよなぁ」
あ。それ確かに・・・言えてる。
夫は、出世欲がめちゃくちゃ強いわけでもないし、「自分がいなかったら会社は回らない」といった執着を持ってもいないと思う。
でも「仕事に支障が出ないため」に、ジム通いをして体を鍛えるなどして、普段から健康管理にものすごく気をつけている。
そのおかげか、この人が風邪を引いたり寝込んだりすること自体は滅多にないんだけど、風邪を引くなどして寝込むのは、仕事が休みの週末であることが、圧倒的に多い。
仮に熱があっても、絶対仕事を休まないし。
二日酔いで出社したことは、過去何度かあるものの、病気や怪我で会社を休んだことは、タハラに入社して約22年の間に一度もない。
これは夫が誇りにしていることでもあるんだけど・・・。
そういうわけで、過去20年の間に、何度お出かけがキャンセルになったことか。
もちろん、夫が寝込んだことだけが、キャンセルになった理由じゃない。
残業や接待が続いて疲れているから、ぎっくり腰になったから、飲み過ぎで気分悪いから、仕事以外で急に予定が入ったから・・・エトセトラ、エトセトラ。
この前だって、「急用ができた」と電話がかかってきて。
ドタキャンじゃなかったものの、待ち合わせ時間が遅くなったから、結局レストランをキャンセルしたのよね。
流れで思い出してしまった、あの時目撃してしまった「こと」を追い出すように、私は頭を軽くふったけど、ベッドに寝てボーっとしている夫は、私の些細な変化に気づいてないようで、ホッとした。
「起きてたんだ。あの・・・さっき宿泊キャンセルの電話かけたよ。キャンセル料を支払うことになるけど、代わりに1泊宿泊券を贈りますって」
「そか・・」
「なんか、旅館の人は、私たちが結婚20年目って知ってたみたいだけど」
「予約したとき言ったんだよ。妻をビックリさせようと思ってるんですよー、なんて話してなぁ。それに、この1泊旅行のことは、日香里と遼にも話しといたし」
「えっ?じゃあ知らなかったのは、当人の私だけなの?」
「あー、まーな。なのにおまえにはこんな形で知られるとはなぁ・・・面目ない」
「仕方ないじゃん」
「あぁ!つくづく自分が情けねえ!」
と夫は叫ぶと、その反動でゴホゴホ咳込んだ。
「ちょっと、急に大声出さないの。薬飲んだからって、治ったわけじゃないんだよ」
「う・・・ごめんな。せっかくおまえをビックリさせようと思ったのに・・・俺もおまえと二人っきりで旅行するの、めっちゃ楽しみにしとったのに。俺、なぜかおまえに関することは、肝心なときにヘマやらかすよなぁ」
あ。それ確かに・・・言えてる。
夫は、出世欲がめちゃくちゃ強いわけでもないし、「自分がいなかったら会社は回らない」といった執着を持ってもいないと思う。
でも「仕事に支障が出ないため」に、ジム通いをして体を鍛えるなどして、普段から健康管理にものすごく気をつけている。
そのおかげか、この人が風邪を引いたり寝込んだりすること自体は滅多にないんだけど、風邪を引くなどして寝込むのは、仕事が休みの週末であることが、圧倒的に多い。
仮に熱があっても、絶対仕事を休まないし。
二日酔いで出社したことは、過去何度かあるものの、病気や怪我で会社を休んだことは、タハラに入社して約22年の間に一度もない。
これは夫が誇りにしていることでもあるんだけど・・・。
そういうわけで、過去20年の間に、何度お出かけがキャンセルになったことか。
もちろん、夫が寝込んだことだけが、キャンセルになった理由じゃない。
残業や接待が続いて疲れているから、ぎっくり腰になったから、飲み過ぎで気分悪いから、仕事以外で急に予定が入ったから・・・エトセトラ、エトセトラ。
この前だって、「急用ができた」と電話がかかってきて。
ドタキャンじゃなかったものの、待ち合わせ時間が遅くなったから、結局レストランをキャンセルしたのよね。
流れで思い出してしまった、あの時目撃してしまった「こと」を追い出すように、私は頭を軽くふったけど、ベッドに寝てボーっとしている夫は、私の些細な変化に気づいてないようで、ホッとした。