full of love~わが君の声、君の影~
トゥルルルルー
このありきたりな着信音は神のスマホ
神は俺に背を向け電話に出る
「え?・・ああわかったすぐに行く」
もう平静を保った声で話している。
何かあったのか?
「咲が破水した・・病院に行く」
え――――!
「わ、わかった!後は俺にまかせろ!」
「わるい」
神は自分のカバンをひっつかむと部屋を飛び出した
今日子さんも後に続く
「今日子さん!頼むよ」
俺の声に振り向いてうなずくと閉まったドアをすり抜けていった
その数時間後、予定日より約1カ月早かったが咲ちゃんは無事に男の子を生んだ
“恭一”とつけられたその名前は明らかに今日子さんを意識してつけられたものだ
以前なら今日子さんを思い起こさせるこの名を「やめてくれ」と断っていたかもしれない
でもその名を聞いてくすぐったそうに照れて喜ぶ姿の今日子さんを見たら
「良い名前だ」と言っていた
「ついに今日子さん、おばあちゃんになっちゃったね~」
『この若さでおばあちゃんとはね~でも幸せ♪』
46歳でなくなった今日子さんはその時のまま止まっている
抱くことはかなわなくても顔を見れて本当に幸せそうだった
そんな今日子さんの顔を見ることができて俺も幸せだった
でも
その顔が以前より薄くなっているような気がした