full of love~わが君の声、君の影~

救急車のサイレンが聞こえる
「下までおぶっていきましょう」
「ええ!そんな」
「動かしても大丈夫そうだし。その方が早いし。ほれ」
俺は冬馬に背中を向ける
「・・いいよ・・」
「照れてる場合か!早くしろ!」
俺は背を向けたまま静かにどなる
肩にそーっと小さい手がかけられる
それを合図に冬馬をおぶう
(けっこう重てえな・・)

時々リビングで寝てしまうさくらをおんぶするが
やっぱり男の方が重い
身長はあまりかわらないのに

下まで降りるとちょうど救急車が到着
冬馬を救急隊の人に預けた
念のためにストレッチャーに乗せられた冬馬と彼女が救急車に乗る

これで俺の出番は終わり・・と思いきや
「お父さんも早く!」
「へ?」
背を押されあっという間に車内にいた
後部の扉はすぐに閉められもはや逃げられない

冬馬がじーと俺を見ているので見返すと
目をそらす
また視線を感じて見ると
また目をそらす
なんだ?

救急隊が彼女に事情を聴いている
まもなく車が動き出す


横で話を聞いてやっと事情が飲み込めた

もともと冬馬には夜中に寝ぼけるクセがあったようで
時々急に起き出して徘徊するらしい

いつもは家の中だけで済んでいたことなのに
今日に限っては鍵の開いていた玄関から外に出てしまい
階段から足を踏み外して落ちたようだ

最初は呼びかけても意識がなく後頭部から出血もしていたので
彼女はかなり動揺したということだ



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