full of love~わが君の声、君の影~

冬馬はやはりたいしたことなく済んだ
しかし念のため検査で1泊することとなった
冬馬が頭の傷を縫っている最中、俺たちは薄暗い廊下の長椅子に並んで座った

「本当に申し訳ありませんでした・・」
彼女が頭を下げる
「いえ、たいしたことなくて良かったですね」
「はい・・すぐに救急車を呼ばなきゃと思ったんですが・・何故か田中さんの言葉を思い出してしまって・・」
「言葉・・ですか?」
「またいつでも話聞きますから」って。スミマセン!こんな真夜中に・・あ! さくらちゃんは?さくらちゃんはおうちに一人なんじゃあ・・」

「いえ、今日はちょうどさくらだけ実家に泊りに行っていて・・だから大丈夫ですよ、俺もまだ起きてたし」
『そうですか・・スミマセン本当に;』
「もういいですよ」
『でも・・電話して良かった』
「え?」
『田中さんとても冷静で。私ひとりではとてもあんな風には・・』
「俺だって自分の子だったら同じですよ、っていうかうちも昔同じようなことあって・・」
『ホントですか?』
「ええ・・;さくらがまだ5歳の時に家の階段から落ちて、意識もあったし出血もなかったけど俺まじであせって、救急車呼んじゃって。で病院行ったらたんこぶだけで全然平気で;その時にこういう時の対処法教えてもらったんですよ・・役にたって良かったです」
あの時に子を育てる親の責任というものを改めて認識させられた気がする

『あの子男の子にしてはあまりムチャするほうじゃなくて。ケガもあまりしないから私・・血を見てあせってしまって・・』
「えーさくらのヤツ、しょっちゅうあちこちから血出してるんですけど・・」
『そうなんですか?』
逆だろフツー;
『夜中の寝ぼけもかかりつけのお医者さまには大きくなれば治るって言われてたし、最近はなくなってたから安心していて・・』
どこの家でも普通に元気に見える子でも色々あるんだな・・
そういえばさくら以外の子のことなんて気にしたことないな

「玄関のカギは2重にかけといた方がいいですね」
『はい、気をつけます』

見ると彼女の手が震えている
右手で左手の震えを止めるように
左手をつかむことで右手の震えを止めるように
硬く握られている

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