full of love~わが君の声、君の影~
「何してる!」
俺の声に驚いた男はパッと女から離れる
見覚えある
石井とかいう最近入ってきた若いレコーディングスタッフだ
女はやはり彼女だった
俺が奴の前に踏み出すと
「俺・・何もしてません!こいつから誘ってきたんです!」
と彼女を指さす
「だから・・その・・」
もうそれ以上しゃべらせなかった
気づくとそいつは地面に尻もちをつく格好になっていた
どうやら俺は殴ったらしい
まだ握ったままの利き手の左のこぶしがジンジン痛む
「まだこの業界にいたかったら俺の前に2度とその面見せんなっ!」
石井はあわてて立ち上がると走っていった
手で顔を覆いその場に座り込む彼女の前に
俺は膝をつきできるだけ声のトーンを落として話かけた
「大丈夫か?」
「ごめんなさい・・」
震える小さな涙交じりの声
俺は彼女を抱き寄せ彼女の頭を自分の肩に軽く押し当てた
「何で君が謝る・・君は何も悪くないってくらいわかる・・謝るのは俺のほうだよ・・うちのスタッフがひどいことをした・・すまない」
わっと一気に泣き崩れる彼女
俺は自分のジャケットを脱いでを細い彼女の肩にかけるとできるだけそっと抱きしめた