full of love~わが君の声、君の影~

7.キミガスキ


彼女に似ている人を知っている。
祖母だ。

俺の両親は仕事で忙しくて
幼少期のほとんどを祖父母の家で過ごした。
いわゆるじじばばっ子だ。

そんな大好きなじいちゃんが死んだのは俺が高校に入って間もなくの頃だった。
脳梗塞で倒れ1カ月の入院を経ての死だった。

2人暮らしだったばーちゃんは当然皆に心配され今後誰が引き取るかが話し合われた。
だがばーちゃんはどの申し出も断った。
「ひとりでも大丈夫よ」と笑っていた。

確かに頭も足腰もしっかりしていて特に持病もない。
俺も皆も「大丈夫」だと思ってしまった。



だがそれから1年後
ばーちゃんは別人になってしまった。

認知症だった。
気がついた時にはかなり進んでいて
次第に俺のことも自分の娘である俺の母親のこともわからなくなっていった。

いつも穏やかで誰にでも優しくて
やんちゃなくせに泣き虫な俺をいつも笑いながら
「大丈夫よ」と頭をなでてくれた。

なのに俺は何も返せなかった。

もっとばーちゃんちに行けばよかった。
高校に入ってバンドに夢中になって電話もロクにしなかった。


それから1年もたたないうちにばーちゃんはじーちゃんのところへ逝ってしまった。
最後まで俺のコトをわからないまま。



彼女はそんなばーちゃんに似ている。
「大丈夫」と他人に心配かけまいと毅然として独りで立っている。

きっとばーちゃんも若い時からそうだったのだろう。
でもそれをじーちゃんが誰よりもわかっていてくれて支えていてくれたから
きっと本当に「大丈夫」だったのだ。



俺はまた同じ間違いを犯すところだった。

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