ブランコ。
「あの・・・八月の十一日なんだけど・・・」

 どうして、山岸から八月十一日のことが出るのか、一瞬、意味がわからなかった。

「八月の十一日・・・それが?」

「あのさあ・・・花火大会が・・・あるだろ?」

「ああ、ありますね」

「それさ・・・行くのか?」

「ええ、行きますよ」

「そっか・・・」



なんかおかしい・・・。

こっちの方が、僕に嫌がらせをしない山岸のほうが、断然いいのだが、なんかおかしい。

調子が狂う。

本人はもちろん知らないが、この前疑った負い目もある。

普段ならこんなことは絶対にしないのだが、僕はとりあえず、おかしい理由を聞いてやることにする。
 
だけど、口調や態度は、そうそう変えられない。

「何か問題でも?」

「い、いや、い、行くんだったら、そ、それでいいんだ」

「はあ・・・それじゃあ僕、行きます」

やっぱり長く持ちそうにない。

何か言いたいことがあれば言えばいい。

何かむかつく。

僕は早めに話を切り上げて立ち去ろうと、タバコを灰皿に押し付けた。

「あっ!・・・あのさ・・・」

「・・・何っすか?」

面倒くさい。

僕はこの時自分の表情が、およそ(一応)年上の人間に対して、愉快にはなれないものだったと、自覚して隠そうともしなかった。
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