ブランコ。
僕は落ちたファイルを拾い上げると、境の腰の部分が隠れるように手の位置を調節した。
境がファイルを拾った僕に礼を言おうとするのを目で制し、周りには聞こえないくらいの音量で囁いた。
(境、ファスナー)
(ん?)
僕が想像していた以上に赤面した境は、それでも自分の赤面した顔をぐっと無理矢理押さえ込むような素振りをみせて(実際に、喉を小さく上下させて)「ありがとう」と囁いた。
僕は「こっちに荷物を渡すように演技」と囁き返しながら、周りには境のその部分が見えないように、立ち位置を変えた。
僕の動きを直ぐに察した境は「はい。これよろしくね」と大きな声で荷物を渡し、僕は境がファスナーを上げるのを見届けてから「ああ」とだけ声を発した。
あまりに大げさにするのもどうかと思ったからだ。