ブランコ。

そんなことがあった。

確かに僕の中でも、鮮明な記憶として残っている。

だけどそれは、僕の中でのある特殊な事情によるもので、僕とリエでは、覚えていたという観点は、別種のものだと思う。


「ボリュームあったな」

「え? 何のボリューム?」

「いや、荷物」

「え? そんなの覚えてないよ」


と、笑いながら、自分のオデコをピチピチ叩く。

リエの癖だ。

僕は手のひらでジャンケンのグーとパーを繰り返すようににぎにぎさせて、ボリュームというのが実は、箱を受け渡す際に偶然触れてしまった、リエの豊満なものを差すということは黙っていた。

それぐらいの役得はあってもいいだろう。

わざとではなく、本当に偶然だったし。

特殊な事情だ。
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