ブランコ。
車内は冷房が効き始めている。
リエの方を向くと、窓の外を見ながら、手のひらで頬に風を送っている。
きっと、思い出したのだろう。
「でね、私さ……」
まだ赤面しているのか、窓の方を向いたままリエは話を続ける。
僕は生まれつき茶色だという髪の毛の中に1本だけ白髪を見つけていた。
「それでね、えっと……」
そう言いながら、リエはこちらを振り向いた。
僕は白髪を抜こうと伸ばしていた手を慌てて引っ込める。
リエは少しだけ首を傾げ、何やってんの? という風に笑いながら目を細める。
「いや、白髪がな」
「なによ、白髪って……」
笑いながらそう言ったリエの表情が、突然、凍りついた。
普段から大きな目は、これ以上ないほどに大きく開かれ、いつのまにか、唇も血の気を失い、カサカサに乾いてしまっている。
小刻みに震える唇は少しだけ開かれ、白く光る少し大きめの前歯が見えている。
「……境?」
僕の問いかけに答えることなく、リエの視線は僕の後ろの窓に固定されたまま、動こうとしなかった。