ブランコ。

車内は冷房が効き始めている。

リエの方を向くと、窓の外を見ながら、手のひらで頬に風を送っている。

きっと、思い出したのだろう。


「でね、私さ……」


まだ赤面しているのか、窓の方を向いたままリエは話を続ける。

僕は生まれつき茶色だという髪の毛の中に1本だけ白髪を見つけていた。


「それでね、えっと……」


そう言いながら、リエはこちらを振り向いた。

僕は白髪を抜こうと伸ばしていた手を慌てて引っ込める。

リエは少しだけ首を傾げ、何やってんの? という風に笑いながら目を細める。


「いや、白髪がな」

「なによ、白髪って……」


笑いながらそう言ったリエの表情が、突然、凍りついた。

普段から大きな目は、これ以上ないほどに大きく開かれ、いつのまにか、唇も血の気を失い、カサカサに乾いてしまっている。

小刻みに震える唇は少しだけ開かれ、白く光る少し大きめの前歯が見えている。


「……境?」


僕の問いかけに答えることなく、リエの視線は僕の後ろの窓に固定されたまま、動こうとしなかった。
< 46 / 260 >

この作品をシェア

pagetop