ブランコ。
08 歯ブラシ

山岸の言ったことはともかく、今はリエの方が心配だった。

あえて沈黙を増やし山岸を追い払う。

山岸は「それじゃあな」と言って、本人は行きたくなかっただろう、パスタ屋の方へ歩いていった。



僕は、何か言葉を掛けようとリエの方を向く。

リエの視線はまだどこを見ているのか、何かを振り払うかのように真っ直ぐ前を凝視し、あまりに強く握り締めた拳には血が通わず、その部分だけが痛いほど真っ白になっていた。

掛けようと思っていた陳腐な言葉は、僕の口の中でもごもごという音にしかならなかった。



これもまた陳腐な方法であるが、人間は飲物(ほんとは温かい飲物)を口にすれば少し落ち着く……という拙い経験則に基づく方法を試そうと思い、ジュースの自動販売機を探した。

たぶん、間が持たないというか、息苦しい空間から少しだけ逃げたかったのかもしれない。

ただでさえ大事な休日に、山岸なんかと会話しなくちゃならなかったからだ。
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