ブランコ。
僕が自分のボックスに腰を落ち着けたときだった。
僕のボックスの後ろを通り過ぎる直前、落としたハンカチを拾う振りをして先輩は、僕の耳元であのふんわりした声で囁いた。
「頑張って」
僕は耳のくすぐったさと照れくささを隠しながら先輩の方を振り向きと小さく言った。
「1投目ストライク。コーヒー」
「え〜ヤだよ〜」
先輩は笑いながら、ハンカチをひらひらとさせる。
「初球ですよ? 初球は誰だって緊張して、ストライクなんか無理ッスよ? だから先輩……ね!」
「じゃあいいよう。でも、そのかわり、もしダメだったらオレンジジュースだからね〜」
と、先輩は言いながら後ろの席へと戻り、隣の友達になにやら楽しそうに話しかけている。