ブランコ。
12 ニヤケ男
「やあ、そろそろ来る頃だと思ったよ」
レジの店員は、にこやかに笑っている。
少しずつ後退し始めた前頂部、笑うと中年男性には不釣合いな八重歯が見える。
細めた目は記号の『〜』にそっくりだ。
「ん? なぜです?」
彼は何も言わず、にこやかな笑顔のまま天井を指差した。
「ああ、そうですね」
僕もにっこりと微笑み返す。
この人といると、自然と自分もそういう笑顔になれるという錯覚を起してしまう。
でも、思わず出る笑顔というものは、自分にとっても気持ちのいいものだ。
まあ、周りから見れば不気味だろうが。
「今は他にお客さんもいないし、ゆっくりしていけば?」
「はい。ありがとうございます」
「とりあえず、こんばんは」
「あっ、こんばんは」
僕は慌てて挨拶を返す。
頭を上げると、彼は以前と変わらぬ笑顔で僕を見ていた。