ブランコ。
「今日は何があったんですか?」
「ははは……わかりますか?」
「ええ、なんとなくね」
「はあ……なんとなくですか……」
彼、ニヤけ男、片桐課長は、ある日突然、会社を辞めた。
全員で説得もしたし、理由も聞き出そうとした。
理由さえ話してくれれば、彼の事だから、僕らは許せそうな気がした。
だけど、彼はただ、いつものあの笑顔で笑っているだけだった。
「まあ、コーヒーでもどうですか? ただし、お金は払ってくださいね」
「ははは、いただきます」
僕は列の一番奥、清涼飲料水のコーナーから、缶コーヒーを取り、レジへ置いた。
彼は慣れた手つきでバーコードの機械を操作すると、「百三十円です」と言った。
僕は小銭を渡す。
「ありがとうございました」
と、あの笑顔でそう言った。
「ありがとうございます」
僕も真似して笑顔で答えた。