黒色女子を個人授業
「花山さん、ちょっといいかな？」

席についた途端、数席離れたところに座っているプロジェクトリーダーから呼びかけられ、「はい」と笑顔で答えるものの、心の中で舌打ちした。

朝っぱらから声をかけないで欲しい。

出社してすぐっていうのは、まずメールチェックから始まり、紅茶を入れて一呼吸置きつつ、気になるネットのニュースやブログを確認して――っていうお決まりの流れを踏んだあと、さぁやるぞ！ ってデスクに向かうものなんだから。

ペースを乱されて少し不愉快になりながら、私はプロジェクトリーダーの席へと向かう。

「お呼びでしょうか」

私が彼の席の横に立つと、彼は椅子をくるりと回転させてその少し太めの身体をこちらに向ける。どっしりと腰を据えたまま口を開いた。

「花山さんは、今月でプロジェクトも一息ついたし、大した作業も残っていないよね？」


……私に『暇か？』と聞いている？


こういうときって嫌な予感しかしない。

プロジェクト終わり際の、やる事に追われない有意義な時間を奪おうとしている……？


「引き継ぎや資料整理などの作業がいくらか残っています」

素直に暇だなんて言えるわけもなく、私はいかにも仕事してますという体を演出した。

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