青空の下月夜に舞う
六階で止まったエレベーター。

廊下を歩き、鍵を出すと、躊躇なく鍵が開けられ、扉を開けた先には。


「きたな……」

思わず漏れた言葉。

広い玄関だけど、靴が並べられてなくて。しかも全て男物。
可愛い健康サンダルもあるけど、サイズがでかい。
しかも靴汚い。

玄関から横にのびる廊下は綺麗だけど……

靴を脱ぎ、中に入っていく祐也に、端に靴を揃えて脱ぐと、その背中に続いた。


「ただいまー」

ただいま?!
リビングであるだろう扉を開けながら、口を開いた祐也に、ここ慶ちゃん家って言ったよな?と思いつつ、灯りが点る部屋に足を踏み入れた。



「お。お帰り~。早かったなあ」


長い髪を後ろでハーフアップにしていて、テレビに映るゲームに夢中……あれ?

その時。
一斉に注がれた視線。

「あら?焼き肉屋の子じゃねえ?」

「そうだ、そうだ!さっき見た子だ」

「祐也の友達ってこの子か!」

何このノリ。
てかさっきのお客さん達じゃん。

しかも……

「金ばら蒔いた奴だよ、この女」

そう。
銀行であった、あの人も。



……ん?

はあ?つーか、口悪っ。

中性的な見た目とは違い、“この女”と言い放った。

「何人ヤった?」

「向こう20は居たんだぞ?こいつ連れて帰ってきただけ」

金髪男に話しかけられ、ソファーに座りながら答える祐也。当たり前にドサッと腰を下ろす様子に、完全に心がおいてけぼりだ。


「響くん、ごめん」

「気にすんな」


祐也が謝りを口にし、答えたのはあの男。ひびき、ってこの人か、と。
雄大が別れ際に言った言葉を思い出した。


「あ、座んなよ。えーっと、まみちゃん?だっけ」

「いえ、大丈夫です……」

「慶ちゃん、まみじゃなくて麻衣」

祐也が金髪男に告げる。
いや、もうまみちゃんでいいからさ。

私、帰りたいんだけど……


立ち尽くす私に、再び“慶ちゃん”が座る様促し、とりあえず祐也からひと一人分スペースを開けて腰を下ろした。
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