彼に殺されたあたしの体
☆☆☆

しかし、自分の上に家が建つというのはそう簡単な事ではなかった。


住人がどれだけいい人でも、あたしはその下にいるのだ。


そして住人はあたしの存在を知らずに生活をしている。


生きている時の、いつも通りの生活というのを忘れたわけではなかった。


朝起きて顔を洗ってご飯を食べて歯を磨いて、そして着替えをして出かけていく。


あたしもそうした生活を16年間続けてきた。


でも、若い夫婦はそれだけではなかった。


朝起きて「おはよう」の挨拶と同時に甘い声が漏れる時もある。


台所に立つ奥さんに向かって「愛しているよ」とささやく声が聞こえてくる。


どうしてなのか、そういう声に限ってあたしの耳は敏感にとらえるようになっていた。


野性的な興奮を求めているのかもしれない。


夫婦があたしの上でベッドをきしませている時、あたしはどうしても土の塀を睨みつけずにはいられなかった。
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