彼に殺されたあたしの体
☆☆☆

いつもなら絵を描いている間は無心になれた。


あたしの上を虫が歩いても、大きな声で鳥が鳴いていても。


それはあたしの絵を描くという作業の妨げにはならなかった。


だけど、今回は少し違った。


夢中になって絵を描いていても、家の中の物音に敏感に反応してしまった。


小さな物音や、聞きなれた生活の音ならまだいい。


けれど時折聞こえてくる椅子を倒す音や、お皿が割れる音などを聞くと、ひどく不安になった。


自分が殺された時の状況が一瞬にして蘇ってくる。


そして思うのだ。


奥さんもあたしと同じように殺されるのではないだろうか、と。


けれどそれは毎回あたしの勘違いに過ぎず、実際はただ椅子に足をひっかけたとか、手からすべってお皿が割れた、という類だった。


冷静に考えれば当たり前だ。
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