彼に殺されたあたしの体
☆☆☆

それから数日が経過した。


奥さんがタクシーで運ばれてから家の中は静かだった。


時々旦那さんが戻ってきてお風呂に入ったり、入院に必要なものを準備したりする以外、家に人の気配はなかった。


あたしはぼんやりと土の壁を眺めながら、久しぶりに訪れた静寂を感じていた。


あたしの上に家が建ってから、昼夜問わずいつでも何かの物音は聞こえてきていた。


昼間は奥さんが仕事をしている音。


深夜になると旦那さんの豪快ないびき。


それらが耳に入ってこないというのは、なんだか不思議な気分だった。


あたし自身がどこかへ移動したワケじゃないのに、まるで別の場所に来たような感じがする。


あたしは静寂の中、土の中で生きている動物を久しぶりに見た。


モグラだ。


ここに埋められてすぐの時には、いろんな生き物たちを見て来た。


それはきっと土の中の生き物が珍しかった、という事も関係しているだろう。
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