神風の如く
七
決断と風の神
元治元年六月四日
ついにあの歴史的な事件が起こる前日となってしまった
どうなるだろうかと不安になる
「華蓮、今日は呼ばれるまで部屋にいろ」
「はい、わかりました」
いつになく険しい顔の土方が部屋を出て行く
今はお昼過ぎ
恐らく桝屋の主人が捕まったのだろう
史実では、桝屋喜右衛門と名乗る古高俊太郎は桝屋に武器や火薬をかき集め、長州藩と手を組んでいたと言われている
そしてそれを新撰組の観察方である山崎や島田が突き止め、捕縛し、拷問にかけるのだ
「ぎゃあぁぁぁぁああ!!」
(ビクッ)
さっきからもう何回目になるだろうか
蔵の方からものすごい悲鳴が聞こえる
屯所内も慌ただしく、華蓮は部屋で一人、うずくまっていた
──スッ
「蓮さん、大丈夫ですか?」
「沖田さんっ」
思いがけない登場に華蓮は少し安心した
「声、聞こえて怖いでしょう?」
本当は怖いのだが、華蓮は首を横に振った
「嘘なんかつかなくていいんです
土方さんが今日は忙しくなりそうなので、僕が蓮さんのことを頼まれました」
鬼のような拷問をしている最中でも、華蓮のことを気にかけてくれるのか
「だから、怖かったら怖いって言っていいんですよ」
差し出された沖田の腕をそっと掴む
土方と恋人関係にある以上、彼以外の腕に抱きしめてもらうわけにはいかなかった
だから沖田の着物をきゅっと握っていた
古高の声が怖いというだけじゃない
これから起こること全てが怖いのだ