偽フィアンセは次期社長!?
「……そいつは、今どこに?」


「タイミングよく、その後、異動になりました。もう顔も見たくないんです。

吉川さん達も、めでたくまとまったのなら、あたしはもうお役御免ということで。

靴とストールは後できちんとお返しします、失礼します」


言い切ってから、走って飛び出す。


特に後ろから声も掛からないし、そのまんまフロアーを突っ切って、自分の部署へ向かう。


逃げ出すみたいで嫌だったけど、あのまんま課長といたら、泣いてしまうかもしれなくて。


課長といると、嬉しい気持ちや楽しい気持ちを確かに感じる。


誰かに守られる幸せを味わったこともある。


その感情が何なのかは分からない。


でも、それは同時に、『あの男 』との日々を思い出してしまうことにも気がついて。


自分で自分の気持ちが分からなくなる。
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