偽フィアンセは次期社長!?
どのくらいそうしていたのか……。


日毎に集計を出すデータの数字を打ち込む作業を、どうやら魂が抜けた状態でやっていたあたし。


「先輩。やばいですよっ!」


月菜ちゃんの声でハッと意識が戻る。


あ、ヤバい、ミスった?!と慌ててパソコンのディスプレイに目をやる。


「仕事してる場合じゃないです!」


……いや、がっつり勤務中なんですけど、あたし。勿論月菜ちゃんだって。


「7月異動の、イケメン柳瀬さんのことなんですけど……」


ひそひそ話をする月菜ちゃんからは、甘ったるい香水の匂い。


その、ダサい藤色の制服には不似合いな甘い香りを嗅ぎながら、妙にドキドキする。


バレるわけない。


あたしと、たく……柳瀬先輩のことは、誰も知るわけがないんだから。
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