偽フィアンセは次期社長!?
コンコンコン


不意に響くノックの音。


「…………!は、はい」


正直、ちょっと嬉しかったりして。


床にはまだコピー用紙が散乱しているこの状況、きっとあたしから頼まずとも手伝ってもらえる。


カチャ……と開いた色気も素っ気もないドアをよこしまな希望を込めて見つめる。



……って。



……な、なんで??


手をついているリノリウムの床の冷たさが、急に増した気がする。


見上げた先に居たのは、久し振りに見る、


「……たく…………柳瀬……先輩」


あたしの呟いたその名前は、ちゃんと口から出ていたのか、どんな音量で出ていたのかも全く分からなくて。


時間が止まったみたい、なんて陳腐な表現がぴったりで。
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