空の恋。
第一章 .゚+.くもり.+゚.

出会いは最悪

親戚のおじいさんが亡くなったと電話があったのは、夏休みが始まって一週間が過ぎようとしていた頃だった。

『やだよ、勉強だってしなきゃいけないし!』

「ろくにしてないくせに、こういう時だけ勉強っていうの止めなさい!お母さん仕事だから手伝いに行けないの。ちょっと料理作ってくるだけでいいから!お願い!」

仕事でお葬式に行けないお母さんの代わりに、手伝いに行ってほしいと頼まれたのが一時間前。
私、稲川香菜は明らかに拗ねた顔で渋々了解した。

葬式会場は家から遠くもなく、中学生の私が自転車で行ける程だ。
確か亡くなったおじいさんは高校の講師をずっとしてたんだっけ、なんて考えながら自転車を走らせる。

十字路を右に曲がってすぐ、葬式会場が見えた。
おじいさんは独身で子供もいなくて、俗に言う身寄りのないお年寄りだ。
だから亡くなったと聞いても、うちのお母さんのように仕事を休んでまで出向くほどのことではないらしい。
大人って薄情。

『あの、稲川ですけど。会場はどこに…』

「稲川様ですね。廊下を真っ直ぐ行って突き当たりを左に曲がったところです」

『ありがとうございます』

親戚の中では一番血縁関係があるのが、この稲川家。
だから喪主はうちのお父さんになっている。
生きている間は指で数える程度しか会っていないのに、亡くなった途端面倒を見るなんておかしな話だ。

大きな扉を開けて中に入ると、花に囲まれた遺影と棺。
そして親戚のおばさんにペコペコと頭を下げているお父さんの姿。

「お、来たか。やっぱり急に来れる人少なくてな、晩ご飯作る人足りなくて。悪いな」

そう言うなり、また新しく来た人に挨拶に行ってしまったお父さんの背中を睨みつけてからキッチンに向かう。
お葬式に肉は食べてはいけないらしくて、何を作ろうか悩んでいると行って早々言われ、私は適当に煮物とか寿司でいいんじゃないかと言うと、それだ!と指をさされた。
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