【短】ウラハラ彼女
「あったかーい…」なんて言葉を口にする彼女に、開いた傘をさしてやる。
首を傾げるのも無理はない。
「…え、と。これは…」
「立って」
「え、あ、はい…っ」
慌てて立ち上がる彼女の手に傘を握らせて、
「風邪、ひく」
自分でも不器用ながらにそう言った。
どうしてこんなことをしたのか分からない。
自分がずぶ濡れになって帰るだけだというのに。
我ながらお節介だと思いながら、彼女の横を無言で通り過ぎる。
言葉なんて、正直言って照れ臭くていらない。
するとワイシャツを後ろから掴まれて、動けなくなった。
何も言わない彼女。
僕から無理に振り払うこともせず、じっと突っ立ったまま。
数秒の沈黙のちに、彼女が唇を薄く開けた。
「優しすぎるよ…。本当、に」