【短】ウラハラ彼女
離れたくない。離したくない。
そんな声を押し込めて、名残惜しくも唇を離す。
挟み込んだままの彼女の顔は案の定真っ赤。
ずっと、見ていたくなる。
湧き出てくるこの感情は、一体なんだ…?
ぷっ、と笑ってみせると、更に恥ずかしそうに目を白黒させた。
「み、はしくん……」
「別に今更、名前で呼んでも構わないけど。
あくまであんたが呼びたいなら、だけど」
「…!っ、きょ、恭平くぅ〜ん!
うわぁああぁん!!」
以前の僕ならかなり不愉快極まりなかった、人の声。
今はどうだろう。
彼女の、堰を切ったような泣き声が耳から入り込んで脳を刺激する。
それさえ心地よかった。
「帰ろう」
「…うんっ」
開いたまま落ちた傘を拾い上げ、彼女に手を差し出せば、満面の笑みで頷いた。
ああ、聴いていたい。
これからもずっと、彼女の声を。