【短編】雨上がりのキスは傘に隠れて。

薄々、気づいていたんだ。


中沢さんの心は別にあるんじゃないかって。


それに何処か自分自身、無理してるのも分かってた。


一生懸命、中沢さんに似合う女性になろうと着慣れない洋服を身に着け、高いヒールを履き、お化粧も変えたりした。


全ては中沢さんに釣り合う女性になりたかったから。


中沢さんに喜んでもらいたかったから。


その日の夜、中沢さんにこれまで付き合ってくれた三年間のお礼とお別れしたいっていうメールを送った。


中沢さんから返事が来たのは次の日で、"分かった"とだけ書いてあった。


それから暫くして中沢さんは会社を辞めた。


理由は一身上の都合ってなってたけど、実際は何処かの大企業の令嬢との結婚が決まったらしい。


今後はその会社で経営者の一員となるべく働くそうだと、


不思議なくらい社内の情報通である掃除のおばちゃんが親切に教えてくれた。


もう何年も前から結婚が決まってた事まで。