魔界姫志ーまかいきしー
「 ——っ、ユイ! 」
気持ちを新たに切り替えて歩みを進めた瞬間に聞こえるのは焦りが混じったようなシキの声だった。
いつもは「お前」とか「カメ女」とか私のことをあまり名前で呼ばないのに今になってこうして呼んでくるんだ。
それが結じゃなくて、ユイだとしても私は何だか少し嬉しいなんて思ってる。
「 な、なに…? 名前で呼ぶなんて珍しい… 」
「 あ、いや…何でもねえけど、お前の様子が変だったから。 」
「 やぁ〜ね、シキったら。確かに少し自分でもこの期に及んで怖いどころか早く彼女たちとの最終決戦をしなくちゃ、なんて柄にもなく思ってるけど——だけど、それ以外はいつもの私だから 」
色んなことが分かった今、いつもの自分なんて分からないけど少なくとも弱いままの私じゃないのは確かで、それと同時に私の生も少しずつすり減ってるんだって。
—— ポケットの中に忍ばせた杖を握る指先の感覚が薄れている。
それがもう確固たる証拠。
心に直接聞こえてくるはずの例の声も、もう聞こえない。
ただ温かな光が私の指先を照らしてるような感覚があるだけ。
元より私は普通の人間だし…こっちの世界に来て少し魔法が使えるようになってしまっただけで
それ以外はなんの取り柄もない人間だった。
そんな私にこの世界で生き抜けと言う方がおかしいに決まってる。
… いや、まあ皆に護られてきたからまだ私は生きてるんだけどね。